“不正咬合の種類と早めの相談をおすすめする歯ならび・かみ合わせを解説します”で挙げた上顎前突について、詳しく見ていきます。
上顎前突とは
日本矯正歯科学会のガイドラインでは、「一般的には上顎前歯が下顎前歯より著しく前方に突出した咬合異常を総称する。」と説明されており、また、いくつかの出版物や論文での説明も紹介されています。

上顎前突は「出っ歯」と言われるように、「上の前歯が下の前歯より大きく前に出ている状態」を総称しています。上の前歯が大きく前に傾斜した「反っ歯(そっぱ)」や、上の前歯2本が前にある「ビーバー歯」、上下のあごの骨や歯ぐきの骨の形や位置に問題があり、上下の歯ならび全体が前後にずれた状態など、さまざまな状態が上顎前突に含まれます。
上顎前突の原因
上顎前突も下顎前突と同じように、骨格に原因がある(骨格性)のものと、歯に原因がある(歯性)のもの、両方が混在するものがあります。
骨格に原因がある場合は、上顎骨(上あごの骨)が下顎骨(下あごの骨)に対して前方にあります。頭の骨に対し上顎骨が前後的に標準的な位置よりも前方にあり下顎骨が標準的な位置にある場合、上顎骨が前後的に標準的な位置にあり下顎骨が後方にある場合、どちらも上顎骨に対して下顎骨が前にあるため上顎前突となります。
歯に原因がある場合は、上下のあごの骨は前後的に標準的な位置関係にあります。しかし、歯の傾きやあごの骨のなかでの歯の位置が主な原因となり、上の前歯が下の前歯よりも大きく前方に突出した噛み合わせになります。
歯槽性と呼ばれるものでは、あごの骨は標準的な位置関係にありますが、歯ぐきの骨(歯槽骨)の成長方向が前方になることにより、歯ぐきや歯が唇側に突出し上顎前突となります。口ゴボでご相談にいらっしゃる方は、この歯槽性の上顎前突が多い印象です
また、習慣や癖(習癖)の影響で上顎前突(出っ歯)を生じることがあります。
子どもの上顎前突に注意しなければならない理由
成長期は骨の成長が大きいために、骨格への影響が生じやすい時期です。この時期に噛み合わせの不正や悪習癖があると、骨格の成長へ作用することがあります。そのため、骨格性の上顎前突や骨格の歪みを生じる可能性があります。
上顎前突(出っ歯、口ゴボ)では上下の前歯に隙間が生じることがあるため、唇を閉じるときに下唇が上の前歯と下の前歯の間に入る癖や、下唇を咬む癖が生じることがあります。また、食事の際に歯が咬み合いにくいために唇や舌を使って食べ物を支えたり押し切ったりすることや、水や食べ物を飲み込むときに舌を前に出して歯や唇の隙間を塞ぐことがあります。
このような習癖があると、唇や舌によって歯に不自然な力がかかるため上の前歯前に大きく傾いたり、上下の歯の間に隙間(開口・オープンバイト)を生じたりすることがあります。
唇が閉じにくいことで口呼吸になることがあり、口呼吸にともない歯列弓(歯ならびのアーチ)が狭くなること、歯の位置のズレにともない一部の上下の歯が早く接触する状態(早期接触、咬合干渉)を生じあごの骨の位置がずれることがあります。
唇が閉じにくい、上下の前歯が咬み合いにくいため、両唇音/p/・/b/・/m/、歯茎音/t/・/d/、歯擦音/s/・/z/・/th/の音に発音障害・構音障害を生じやすいです。
これらの理由から、上顎前突(出っ歯や口ゴボ)が気になったら早めに相談することをおすすめします。
上顎前突の治療方法
成長期の矯正治療(こどもの矯正治療)では、成長のタイミングを考慮して骨格へのアプローチを行います。上あごの骨の成長が大きい場合は上あごの骨の成長の抑制、逆に下あごの成長が小さい場合は下あごの骨の成長促進を行います。
必要と考えられる成長の抑制や促進の程度により、顎外装置(ヘッドギア、フェイスボウ等)、機能的矯正装置(フレンケル、バイオネーター)などの装置を使用します。また、歯並びのアーチが狭い状態(歯列弓の狭窄)や歯の凸凹(叢生)を伴う場合は、歯の早期接触による咬合干渉の解消(顎の位置がずれる原因となっている歯の位置の修正)や、骨格へ作用する装置の装着をしやすくする目的でリンガルアーチや床装置、部分的にブラケット装置を使用して歯ならびの矯正を行います。
成長期には骨格の不調和の改善を主な目的とした治療を行い、成長が落ち着いてから本格的に歯を並べる治療に入ることが多いです。
成人期の矯正治療(大人の矯正治療)は、身長の変化や手のレントゲン写真などから骨の成長がほぼ終了したことを確認して行います。
上下のあごの骨の位置関係が定まっている状態での治療となり、上下のあごの骨の位置関係を変えることができません。骨格の前後的な不調和のために上の前歯を内側に下の前歯を前側に傾ける必要がある場合があります。あまり大きく歯を傾けると歯根(歯を支える根)が歯槽骨(歯ぐきの骨)からはみ出してしまうので歯槽骨に収まるように、物を咬んだときに無理な力がかからないように歯を並べていきます。歯の並ぶスペースが足りなければ小臼歯の抜歯が必要となる場合があります。
成人期の治療装置は、ブラケット装置(表側・裏側)やマウスピース型矯正装置を用います。歯の移動方向や移動量により歯科矯正用アンカースクリューを使用することがあります。
また、顎の骨の位置のずれが大きい場合は、矯正治療のみで安定した噛み合わせを作ることが困難となるためあごの骨に対する外科手術をともなう治療をおすすめすることがあります。
歯ならびやかみ合わせに気になることがあればお気軽にご相談ください。